私がボランティア活動を本格的に始めたのは大学生の時でした。それまでにも経験したコト自体はありましたが、到底「ボランティアをしていた」と言えるレベルのモノではありません。それが大学生になってから多くのボランティアに携わるコトになり、その後のあらゆる活動、仕事や余暇にまで繋がっていくコトになります。ココでは、そんな私のボランティア活動黎明期について、ボランティアサークル加入のキッカケから少し綴ってみました。
登場人物
・ヨルゲンセン … 僕であり、私。
・Aさん … ヨルゲンセンをサークルに勧誘した女子
・Tくん … ヨルゲンセンと同期の男子学生
・Hくん … サークル創設メンバーの一人で肩書はサブリーダー。
・クラッスス … サークル創設メンバーの一人。自身のキャリア以外に興味無し。
・ポンペイウス … サークル創設メンバーの一人。肩書はリーダー。
ボランティアサークル
大学時代、クラスは違うケドも顔見知りの女の子(Aさん)から、食堂で不意に誘われて入ったボランティアサークル。勧誘はかなり唐突で、男4人で喋っている時にいきなりテーブルの下からヒョコっと顔を出したその娘は
「ヨルゲンくんボランティアとか興味ない?」
と僕に声を掛けた。
僕以外の3人の男子も、その状況に驚いたかも知れない。しかし、僕に彼らの反応を確認する余裕は無かった。自分自身が大いに驚いていたからである。『なぜ今声を掛けてきたのか?』『なぜ僕に声を掛けてきたのか?』疑問がたくさん浮かんだ。男4人で話しているところにわざわざ割って入って声を掛けるぐらいなのだから、それなりの用事なのだろうと思いきや、内容は別の機会でも問題なさそうなモノ。どうしてそのタイミングだったのか、そもそもなぜ誘ったのが僕だったのか。色々な思いが頭をよぎった。
しばらくどう返事をしたもんだろうかと逡巡した後、
「特に興味があるワケでも無いワケでもないケド…」
と非常に曖昧に答えると、Aさんから、
「一回、サークルの集まりに来てみーひん?」
という追撃があった。
「あ…うん、別にイイけど。」
そう答えた僕に
「じゃあ先輩に連絡しとくわ~。時間と場所決まったらまた連絡するね。」
と返したAさんはサッとその場を去った。
その後はトントン拍子で話が進んだ。Aさんはサークルの代表者とスグに話をつけたようで、メンバーと会う機会はスグに訪れた。
ボランティアサークルの会合は、ある日の昼休み、場所はとある講義室。指定された部屋は、僕が2コマ目の講義を受けていた場所だった。というコトは、講義後そのまま座っていればイイ。移動の手間が省けてラッキー…と思うなかれ、当人の気は重い。その場にいれば良いというのは、運動量の観点から言えば楽だったが、あの環境で知らない人を待つというのは…心情としては微妙だった。
しばらくすると、学生数人が入って来た。先頭にいるのは、学内で何度か見かけたコトのある小柄な男子学生。講義室には、僕以外にも残っている女子学生数人がいたのだが、入室してきた彼らは迷いなくその集団の所まで歩いて行き、仲良さそうに話し始めた。そこで僕は気付いた。
『そうか、なぜ僕がこの男の顔を知っているのか分かった。』
『これまでに何度か、今この瞬間と同じ光景を目にしたコトがあるからだ。』
この小柄な男子学生がHという名前の先輩であり、当該ボランティアサークルのサブリーダーであるコト、そして彼が向かった先にいた女子学生の集まりが、全員サークルメンバーだったというコトは、その後スグに判明した。知らぬ間に会合に入れられた僕は、特に断る理由も無かったので、そのままサークルに加入するコトになった。余談だが、そこに僕を勧誘した張本人であるAさんはいなかった。その後もAさんとは特に大きな関わりを持たないまま時が過ぎるコトになる。大学を卒業するまでお互いメンバー同士ではあったし、知り合いでもあったが、逆に言えばそれ以上でもそれ以下でも無かった。それ故、なぜ勧誘されたのか、なぜ僕だけに声がかけられたのかは聞けず仕舞いで、未だ謎のままである。
サークルの代表へ
ボランティアサークルは出来て間もなかった。僕が1回生だった年の秋に発足し、僕が加入したのは年度末。創設したのは2回生で、メンバーはほぼ2回生と1回生で構成されていた。2回生も1回生も共に10名弱ずつ。合計して15名いたかどうか。2回生は比較的多様な学部から男女バランス良く集まっていたが、1回生は学部が特定のモノに偏っていた上に、その殆どが女性だった。唯一、僕より先に入っていた男子学生が一人(Tくん)。彼には喜ばれた。それまでは同期の男子学生が自分独りだったからである。僕が加入したのは年度末だった為、スグに2回生に進級した。
2回生の夏を過ぎると早速引継ぎの話が持ち上がった。当時サブリーダーだった小柄な男子学生Hは、自身のキャリアが3回生の半ばに入ったコトで、今後サークル活動に割ける労力が削られていく可能性が高いコトを危惧し、自分達の代わりにサークルを引っ張っていける人物の選定に入ったのである。選定と言っても、彼らが選ぶのではない。無論、後輩達の中から希望者が出なければ先輩達で選ぶコトになるだろうが、基本は立候補を募るのである。話し合いは難航した。みんなリーダーはやりたがらない。先に責任が軽そうな何かしらの役職に就こうと
「私、書記やるぅ~。」
といった、不毛な主張だけが飛び交った。
ギネス級に無駄な時間が過ぎる中、シビレを切らした僕が挙手した。
「じゃあ、僕がやりま~す。」
Hはやや難色を示した。僕が不適当であると思ったワケではない。僕にやらせたくなかったワケでもない。ただ、この重たい空気を打破する為に投げ槍で誰かがやろうとするのを嫌ったのである。確かに、僕は呆れ返った末に手を挙げたが、嫌々などではなく、やると明言する以上は覚悟を決めたつもりであった。
なのでもう一度、
「やります。」
と繰り返した。僕の意を察したと思しきHは、それならばと承諾した。
僕は元々、代表者をやりたいとは思っていなかった。しかし逆に、特にやりたくないワケでもなかった。気になっていたのは一点のみ。『最も後発の自分がトップに立って大丈夫なのか』という部分だけである。コレは、自分自身の納得の問題などではなく、『周りが納得するのかどうか』という話である。しかし、どうやらこの思いは杞憂だったようだ。殆どのメンバーは『自分はやりたくない』という思いに囚われており、自分以外の誰がやるのかについては一切関知しないという様子だった。その点において、新代表の選定はスムーズに進んだ。その点においてのみは…。
新体制のサークル運営
サブリーダーHからはスグに引継ぎがなされた。ボランティアの会議も、程なく私が議長となり進めるようになった。そうして2回生の後半以降、サークルは私を中心に動き始めたのである。私がイニシアチブを得てから取り組んだ内容は様々あるが、今パッと思いつくモノを大雑把に挙げるとすると、
・それまで不定期だった会議を、メンバーの予定をすり合わせた上で曜日・時間固定にし、定期開催とした。
・会議にはそれまで無かったレジュメを用意し、必ず議事録として残すようにした。
・新たなボランティア活動先を開拓し、新規依頼を受けた先には必ず、まず自分が行くようにした。
・他大学との交流機会を設け、ボランティア以外にも活動の幅を広げた。
といったような感じであろうか。
様々な改革を次々と行い、サークルの体制を自分があるべきと思う形に整えていった。そうしている内に仲間も増え、10名かそこらだったサークルメンバーが60名を超す大所帯となったのである。ただ、自分が代表を引き継いだ時点から解消されない問題もあった。権力闘争である。
ココまで読み進める中で、何かしらの違和感を感じた方がおられたかもしれない。実はコレまでの展開の中に、明らかにおかしい部分がある。それは、今まで出てきた登場人物の中に、サークルの『リーダー』がいないコト。そして、私が『サブリーダー』から代表職を引き継いだコト、である。『リーダー』は居なかったのではない。確かに存在した。それどころか、このボランティアサークルには『リーダー格』の人間が3名もいたのである。なぜ3人もいたのか。理由は簡単である。この組織は、その3名の人物が中心となって立ち上げた団体だったからだ。私はこの3名を、よく、カエサル(ガイウス・ユリウス・カエサル)、クラッスス(マルクス・リキニウス・クラッスス)、ポンペイウス(グナエウス・ポンペイウス)に例えている。3名がそれぞれに一定の権力・影響力を持ちながら3頭政治をしていた、要するに三つ巴だったのだ。
(本物ではなくサークル内の)クラッススは『教育』の分野に特に傾倒しており、逆に言うとそれ以外にはあまり興味が無かった。そのため、自分が進む『教育』関連のルートにのみ注力し、自身のキャリアに関係のない所には目もくれなかった。故に、教育関係に興味を持つ者や教員免許取得を目指す者は彼と一定の繋がりを持ったが、それ以外のメンバーと彼の関係が深まるワケはなかった。現場に出るコトも殆どなかったため、彼が周りから信頼を集めるコトは終ぞ無かったのである。
一方、(本物ではなくサークル内の)ポンペイウスは『リーダー』だった。さすがに肩書の上ではトップだっただけあり、黎明期は活動にも参加していたし影響力も持っていた。しかし、この人物も時を経て徐々にアクティヴさは失われ、陰に隠れていった。
こうなると残りの1名が自然と浮上してくる。カエサルである。既出の小柄な男子学生、サブリーダーHだ。彼のみが唯一後輩達と積極的に交流し、全体を実質的に引っ張る役目を担っていた。引継ぎに関しても、カエサル(H)のみが危機感を示し、それ以外の首脳は動かなかった。「まだ地位を譲る気は無い」あるいは「その必要が無い」と考えていたのかも知れない。しかしカエサルは、そんな他の首脳の態度に業を煮やし、やや越権ながら自ら動いて代表者の地位を後輩に譲ったのである。
私は実際の『リーダー』だったポンペイウスから直接その地位を譲られたワケではなかったので『リーダー』とは名乗らなかった。言葉だけの問題ではあるが、その名を継承するのは越権だと考え『リーダー』『サブリーダー』という肩書きを廃し『代表』と名乗った。私はよく、カエサルから禅譲された自分をオクタウィアヌス(ガイウス・ユリウス・カエサル・オクタウィアヌス・アウグストゥス)に例えている。創設して間もないサークルの形を整え、勢力を拡大し、盤石なモノにしたという自負からもまさにピッタリである。傍から見れば、滑稽な過大評価かも知れない。だが、その後の権力争いも含めれば、案外この例えがしっくりくる。
大学生の時の不意な勧誘から何となくの参加でスタートした私のボランティア活動。責任を持つ立場になってから更に傾倒し、それが他の活動やその後の仕事にも大いに影響を与えていくコトになる。
コメント